ビッグ4を筆頭に、「健全な」スラッシュメタルが人気を集めていた北米は、後のブラックメタルへの影響は希薄であったが、中南米となると話はまったく別。
気候的には対極にあるであろうスカンジナヴィアのミュージシャンたちの興味をそそるイーヴルで滅茶苦茶なバンドが、何故か80年代の中南米にはたくさんいた。
そして80年代後半、北米・ヨーロッパのシーンがどんどん健全化していく中、中南米のシーンは何故か時代から取り残され、邪悪なメタルを好む者たちにとっては最後の楽園的な様相を呈していたのだ。
筆頭に挙げるべきはブラジルのSarcofagoだろう。気候的には対極にあるであろうスカンジナヴィアのミュージシャンたちの興味をそそるイーヴルで滅茶苦茶なバンドが、何故か80年代の中南米にはたくさんいた。
そして80年代後半、北米・ヨーロッパのシーンがどんどん健全化していく中、中南米のシーンは何故か時代から取り残され、邪悪なメタルを好む者たちにとっては最後の楽園的な様相を呈していたのだ。
デビューアルバム"I.N.R.I."(87年)は、この世で最も邪悪なアルバムの一つ。
何重にも巻き付けられた銃弾ベルト、五寸釘アームバンド、コープスペイントにモヒカンというメンバー写真の破壊力は凄まじい。
SarcofagoはカナダのBlasphemyと共に、ノルウェー勢よりもBeheritやImpaled Nazareneなどの、90年代フィンランドのブラックメタルバンドに大きな影響を与えている。
その後すっかりビッグネームとなったSepulturaも、初期はブラックメタルの文脈で捉えられる。
元々はOverdoseとのスプリットとしてリリースされた"Bestial Devastation"(85年)、及びファーストフル"Morbid Vision"(86年)は、まさに南米のイーヴル・スラッシュ。
SarcofagoやこのSepulturaが所属していたCogumelo Recordsは、80年代のブラジリアン・スラッシュを知る上での最重要レーベル。
紹介したいバンドはたくさんいるのだが、少なくともコンピレーション
"Warfare Noise I"(86年)は必聴。
前述のSarcofagoに加え、Chackal、Mutilator、Holocaustoを収録。
当時のブラジルのシーンの、凶悪な雰囲気がひしひしと伝わってくる名盤だ。
ブラジルと共にスカンジナヴィア勢の心を捉えていたのが、BlasfemiaやParabellum、Reencarnaciónあたりのコロンビアのバンド。
特にBlasfemiaは、そのあまりに滅茶苦茶な演奏に度胆を抜かれた者も多かった。
前回Sodomの"In the Sign of Evil"を演奏がバラバラの奇跡の名盤と書いたが、Blasfemiaの滅茶苦茶さ加減はそれをはるかに凌駕する。
言ってしまえばただの滅茶苦茶。
よくこれを作品として発表したというレベル。
だがそのインパクトは半端ではない。
最早我々とはまったく別の美的センスを持っていると考えるしかない。
一体何故ノルウェーやフィンランドでコロンビアのバンドが注目を集めていたのか不思議ではあるが、故Euronymousが、辺境メタルマニアであったため、彼を通じてこのあたりのバンドに興味を持つ者も少なくなかったのではないだろうか。
北米にもわずかだが、イーヴルなスラッシュバンドは存在した。
Possessedの1st"Seven Churches"(85年)におけるドラムのドタバタ加減はブラックメタルへの影響が大きいが、完全にサタニックなイメージを保持していた彼らですら、後期にはアンチ・サタニズムを唱え出す始末。
メインストリームを意識し、サタニズムから脱却を図るに連れて、人気が低迷していったのは皮肉。
故Euronymousがファンであると公言したために、90年代以降突如注目を浴びたのがNME。
Venom直系のバンドだが、ギタリストが86年に養母を惨殺しているということで、ノルウェーブラックメタル勢の興味を引いた。
まったくの無名であったが、BurzumのVargが「True Black Metalバンドの一つ」と名を挙げたことで俄かに注目を集めたのがサンフランシスコのVON。
スラッシュメタルと呼べるかは微妙だが、結成は87年にまで遡る。
殆ど展開のない、しかも極端にシンプルなリフで押し通すスタイルは、元祖プリミティヴ・ブラックメタルの一つ。
さて次回は90年代以降のブラックメタルに最も大きな影響を与えたバンド(?)、
Bathoryについて。
CREDIT: Sigh 川嶋