1982年発売のセカンドアルバムのタイトルが、そのものずばり"Black Metal"。
ただ、それがジャンルとして即認知されたかというとそうではなく、VenomはむしろThrash Metalの元祖という捉えられ方をしていた。
82年と言えば、まだまだThrash Metalすら生まれたばかり。
その中でさらなるジャンルの細分化が起こるような状況ではなかった。
80年代においてはBlack Metalというジャンルは漠然と存在はしていたものの、例えばレコード屋に"Black Metal"コーナーが存在するようなこともなく、「Black Metalというのはこういうものである」というある程度の音楽的共通認識もあったわけではなかった。
ブラジルのSarcofagoやカナダのBlasphemyなど、特にサタニック色の強いバンドがBlack Metalと分類される傾向はあったものの、あのBathoryですら、一般的にはThrash Metalとして捉えられていたのである。
Black Metalが音楽の一ジャンルとして認知されたのは、90年代のスカンジナヴィア、特にノルウェーを中心としたBlack Metalブーム以降のことである。
そして前回も書いたとおり、彼らが音楽的テンプレートとしたのは、Venomではなく、Bathoryであった。
それではVenomのBlack Metal界における功績は、ジャンル名を作り出しただけかというと、当然そうではない。
NWOBHMの世界では、Witchfinder General, Witchfynde, Hell, Demonなどを始め、サタニックなイメージを打ち出していたバンドは多くいたが、Venomのそれは徹底していた。
彼らのサタニック、イーヴルなイメージ戦略は、90年代以降のBlack Metalに多大な影響を及ぼしているのである。
例えばCronos, Mantas, Abaddonというステージネーム。
現代のBlack Metalバンドを見渡した場合、本名で活動していることの方がレアである。
担当楽器もいちいち"Chainsaw Guitar", "Bulldozer Bass"などと記す念の入れよう。
アルバム"Black Metal"のA面・B面は、それぞれ"Side Black ", "Side Metal"と名前が付く。
これは即座にSlayerのデビューアルバム"Show No Mercy"(Side6とSide66)に引き継がれ、その後Black Metalの世界で定番となった。
そして絶対に忘れてはいけないのが、いまやBlack Metalとは切っても切れない関係、アーティスト写真には必ず登場する武器の数々!おそらくはMantasが斧を構えている写真が、Black Metal=武器というイメージの出発点であろう。
ブラックメタルバンドの写真=豪華、というのはVenomが作り出したものだ。
"Die Hard"のシングルのジャケ写真は、まさに現在のブラックメタルバンドのイメージそのままである。
(火吹きはKiss、コープスペイントもやはりKiss、或いはAlice Cooperが元祖、King Diamondが直接的なBlack Metalへの影響元と見なせるだろう。)
Black Metalの音楽的手本を作ったのがBathoryならば、その世界観を作り出したのはVenom。
さらに言えば、音楽的にもBlack Metalという音楽スタイルを完成させたのはBathoryであるば、言うまでもなくその原型を作ったのはVenomだ。 BathoryのQuorthonは、生前Venomからの音楽的影響を否定し続けたが、その1stアルバムを聞けば、それが真実でないのは明白だ。
VenomこそBlack Metalの生みの親であり、名付け親である。
Venomが存在しなければ、Bathoryも存在せず、Black Metalも存在しなかったであろう。
CREDIT: Sigh 川嶋