90年代のブラックメタルは、80年代のスラッシュメタルの影響下発展したが、それをもう少し厳密に言うと、
- 80年代中盤(せいぜい86年)までのスラッシュメタル
- ヨーロッパ及び南米のバンド
ロックというのは元来イーヴルな側面を持っているもの。
The Beatlesの" Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band"のジャケットにはアレイスター・クロウリーが写っているし、The Eaglesの名曲ホテル・カリフォルニアはChurch of Satanについての歌だと噂されている。
あの爽やかなイメージのThe Beach Boysですら、Charles Mansonと親交があった。
HR/HMに至っては、Jimmy Pageのオカルトへの傾倒は有名だし、Black Sabbathやその後のNWOBHMのオカルティックなバンド群については改めて説明する必要もないだろう。
80年代前半にスラッシュメタルという音楽が生まれた時、それは間違いなく音楽的にも歌詞・イメージ的にも、こういったロックのネガティヴな要素を凝縮した、暴力的でイーヴル、時に反キリスト的な要素を強く持っていたのである。
あのMetallicaも、ファーストアルバムのタイトルは"Kill'em All"、ジャケットは血まみれのハンマー。(当時の邦題は見たままの「血染めの鉄槌」。)
今では全く暴力的な印象のないAnthraxですら、ファーストアルバムのジャケはC級以下のヴァイオレンス。
Slayerに至っては、目の下を黒く塗り、五寸釘のアームバンドを装着した、殆どブラックメタルバンドのような出で立ちであった。
今ではビッグ4と称される、メジャーなバンドですらこの有り様だ。
アンダーグラウンドにおけるスラッシュメタルバンドが、いかにイーヴルなイメージを纏っていたかは想像に難くないだろう。
だが、そんな反社会性も残念ながら長くは続かなかった。
Metallica、Megadethの商業的成功の前には、悪魔の力などちっぽけな物でしかなかったのだろう。
やがて「インテレクチュアル・スラッシュメタル」なる言葉が蔓延、スラッシュメタルの世界においても「インテリジェント」であることが良しとされる風潮が出てきてしまったのだ。
曲は長く複雑になる。46分テープには収まらないアルバムを出すことがステータス。
歌詞は地球温暖化、反戦などの社会的問題について。
サタンを賛美するなど小学生のやること。
ガンベルトに五寸釘なんて時代遅れ、白Tシャツ・短パンにバスケットシューズこそが正装。
恐ろしいことに、そんな風潮が80年代後半スラッシュメタルの世界を支配するようになってしまったのだ。
この傾向はビッグ4を輩出した北米で顕著だった。
元々ヨーロッパに比べ明るい音楽がウケる傾向にある北米では、邪悪さの希薄なベイエリア・スラッシュや、ハードコアパンクとスラッシュメタルの融合であるクロスオーバーなどが台頭。80年代終盤に向けて、スラッシュメタルの非イーヴル化は加速していったのである。
それに真っ向から挑戦状を叩きつけたのが、Mayhemを筆頭にしたノルウェーのブラックメタルバンド達。
メタルはイーヴルでなければならない。
邪悪な歌詞。皮ジャンに黒Tシャツ、それにコープスペイント。
徹底的な商業主義の排除を目的とした、劣悪な音質による録音。
(80年代中盤までのスラッシュメタルアルバムの音質が悪かったのは、明らかに予算と技術の不足であり、故意に商業性を排したものではないが。)
彼らのスローガンは"No Fun, No Core, No Mosh, No Trends"。
これは明白に、80年代後半の北米のスラッシュシーンに対するアンチテーゼである。
次回から、90年代以降のブラックメタルに影響を与えたヨーロッパ・南米のバンドについて見ていきたい。
CREDIT: Sigh 川嶋