”持っているよ”と答えると”「サーチ・アンド・デストロイ」カセットに入れて!”と速攻で頼まれた。
声をかけてきたのは、中村達也。もう30年近く前の話だ。
遂にパンクに突入!って思っていたら、奥歯に何かが詰まっているような気持ちの悪さがしてきた。
この気持ちは何なのかなあ、何か抜けているなあ?と頭の中にこびりついていた時に思い出したのが中村達也のひとこと。
このバンドが、ニューヨークのプレパンクとパンクを結びつける架け橋的なバンドでした。
日本のロック・ファンは真面目なのでニューヨークのアンダーグラウンド・ロックは文学的で退廃的なものを求める風潮が強いが、所詮ロックは娯楽なのだ。
思考回路のスィッチを切り替えると、もうひとつの面、文化的な視点が浮かび上げって来る。
ランボーやジャリ、ヴェルレーヌ、ワイルドとは別に、テレビ番組、コーラ、スポーツ(野球・サーフィン・アメフト・バスケ等々)、コミック、ゴシップ雑誌、ジャンク・フード(ファスト・フード)それと50~60年代の踊れるロック。
これらもまた、パンク(くず)が愛情を込めて求めたものだ。
Blue Oyster Cultの「ゴジラ」よりも1年早い、1975年に世に出たThe Dictators『Go Girl Crazy!』は、日本で無視されたレコードだ。
理由は簡単.”文学的”でないからだ。
KISS、エアロスミスを売り出していた時期だったことも、アンラッキーだった。
何しろ、アルバムジャケットを見ると、プロレスラーがニヤ付いたポーズをとっているし、裏ジャケットは変てこなピンナップ。
メンバーの名前もTop Ten(Pacemaker Guitar)とか、Ross The Boss(Lead Guitar,Vocals)、Adny Shernoff(Lead Vocals,Tunes)、Stu Boy King(Drums)といった具合でふざけている。
クレジットの中には”秘密兵器”なる人物まで。
ロック・ファンにとって有力情報は、Blue Oyster CultのプロデューサーSandy PearlmanとMurray Krugmanが絡んでいること。
輸入盤が2,500円を軽く超える時代に、手を出し難い一枚だった。
入手した人は、どう思ったんだろう。
私は、B面2曲目の「California Sun」にぶっ飛ばされた。何しろ、速い。
いきなり飛び出して来る、原始的なドコドコしたビートに思わず踊ってしまった。
最後の”チャチャチャ”って締めるところが、気に入った。
しかし、全体的に”ラズベリーズみたい”という印象を持っただけで、あまり聴き込まなかった。
Manifest Destiny
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Blue Oyster Cult のパクリか?
Bloodbrothers
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格好良い!
Punk Magazine 11号
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Dictators特集
『Go Girl Crazy!』は聴き直すといろいろ発見がある。ファイル 17-6.jpg
Blue Oyster Cult のパクリか?
Bloodbrothers
ファイル 17-7.jpg
格好良い!
Punk Magazine 11号
ファイル 17-8.jpg
Dictators特集
第一印象で面白い作品というよりは、マニアが”にやにや”しながら聴く作品に近いかもしれない。
比較することが出来る多くのアルバムを聴いている人が耳にすると、面白さは伝わると思う。
サーフ・ロック(Beach Boys)、ハード・ロック(MC5)、バブルガム・ロック(Ohio Express)、それにブリティッシュ・ロック(The Who)とグラム・ロック(Lou Reed)のテイストが渾然一体となって、アイデアが独自のポップ感覚を持って、次からつぎへと投げ出される。
RAMONESを何万回も聴いた人ならば、一発で理解出来るであろう、独自の世界のルーツのひとつがここにある。
ソーダ(=炭酸飲料)にサンドィッチ(=ファスト・フード)にTVの世界だ。
消費することが美徳の国をシニカルな視点で描いている。
そこら辺にいるガキが思っていることを、異星人の仮面やキャンプやハイプな顔をするのでは無く、ごく普通になんのためらいも無く、あっけらかんと”The Next Big Thing”と宣言しているのだ。
このアルバムを出した後、バンドは一時期分解。
Ritchie Teeterにドラムが代わり、ファーストアルバムのジャケットのプロレスラー(実は、バンドのローディーだった)かつ”秘密兵器”Handsome Dick Manitobaをヴォーカルに迎え活動再開。
1977年に、アメリカのウエストコースト・サウンドを代表するレーベル”アサイラム”からセカンドアルバム『Manifest Destiny』をリリース。
このアルバムB面の最後に入っている曲を、中村達也は知っていたのだ。
1978年には、後にWarzoneが受け継ぐ、ロック色の強いNYHCテイストが感じられる、勢いのあるA面1曲目「Faster And Louder」でスタートし、B面最後に、パンキッシュでエネルギーの渦巻く都市的な解釈が素晴らしいFlamin' Groovies「Slow Death」のカバーを含むサードアルバム『Bloodbrothers』をリリース。
しばらくしてバンドは解散してしまった。
解散後のメンバーの動向が面白くて、ギターのRoss The BossはパワーメタルのManowarを1982年に結成している。
ドラムのRitchie TeeterはグラムメタルのTwisted Sisterに加入。
パンクとメタルが全く別のものだった時期(1980年代前半)に、既に交り合いをしている。
もう一人のギターTop Tenはインディー・ギターロックバンドのDel Lordsを結成している。
蛇足だけど、Punk MagazineのThe Dictators特集によると、Top Tenは学校に通っていた頃、KISSのAce Frehleyとつるんでいたらしい。
このようなメンバーの行方、雑多な色合いに文化系のThe Dictatorsらしさが出ている。
さあ、これでRAMONESやBLONDIEの入り口まで来た感じだ。
でもこの頃、ザクザクしたカミソリの刃で切り刻むようなギターの音をした「She Does It Right」という凄い曲を聴いてぶったまげていたのだ。
CREDIT: TAYLOW / the原爆オナニーズ