しかしそれが、ノルウェーのブラックメタル界では思わぬ不和を生み出す結果となった。
MayhemのEuronymousとBurzumのVarg Vikernesの対立。
元々はEuronymousの取り巻きの一人であったVarg。
BurzumのデビューアルバムもEuronymousのレーベルからリリースされるなど、二人の仲は良好であったはず。
だが、教会放火などの「実行面」でブラックメタル・ブームを作り上げた自負のあるVargにしてみれば、(犯罪という面で)特に何をしたわけでもないEuronymousがいつまでもリーダー気取りなのが気に食わない。
一方、Vargの言動によりメディアの注目を受け、過剰な取材攻勢にあったEuronymousはHelveteを閉店に追い込まれる。
Helvete経営にあたり、両親から援助を受けていたEuronymousは、彼らからの圧力により閉店を余儀なくされたと言われている。
他にも色々と不仲の種はあったようだ。
約束のBurzumのレコーディング代が支払われない。女の取り合い。
VargはEarache Recordsと契約しようとしていたとも言われ、自分でブラックメタル・シーンをコントロールし、既存の大手レーベルの介入を排除しようとしていたEuronymousはそれも面白くなかったようだ。
とは言え、普通ならせいぜい殴り合い程度で終わるところ。
だがこの二人の争いは、行くところまで行ってしまった。
Kerrang!のブラックメタル特集から半年も経っていない1993年8月10日。
Euronymous刺殺。
深夜にEuronymousのアパートを訪れたVargは、持っていたナイフでEuronymousを襲撃。
全身23か所を滅多刺しにし殺害した。
Vargによれば、先に手を出してきたのはEuronymousの方。
彼はあくまで正当防衛のためにナイフを使わざるを得なかったと主張している。
だが、Euronymousはその時下着姿。
何を持っているかわからないVarg相手に、下着姿のEuronymousが先に襲い掛かったというのは考えづらい。
さらにVargはこの晩、友人を部屋に泊まらせ、在宅であるかのような工作もしている。
おそらくはVargが計画的にEuronymousのアパートを訪問、殺害したのだろう。
ではなぜVargは殺害などという方法を選ばなくてはいけなかったのか。
目障りだ、金を払ってくれない、女のトラブルがあった。
そんなことで人を殺すのだろうか。
そもそも常識では測れない人物なので、その可能性がないとは言い切れないが。
一方Varg自身の主張は、「殺られる前に殺った」。
彼によれば、Euronymousが先にVarg殺害を計画していたというのだ。
Vargをおびき寄せ、スタンガンで気絶させ、拷問の上殺害、しかもその様子を撮影する。
そんなプランをEuronymousはごく限られた友人に明かしていたという。
(そもそもこの供述が、突発的に自己防衛で刺したという証言と矛盾するわけだが。)
一方で、Euronymous殺害の共犯で逮捕されたSnorre Ruch(Vargを当日車でアパートまで送って行った、当時Mayhemのセカンドギタリスト)の証言はまったく違う。
彼によれば、Vargはただ自分が一番悪いということを、インナーサークルに示したかっただけだという。
実はインナーサークル内の殺人事件はこれが初めてではなかったのだ。92年夏、当時EmperorのドラマーであったFaustが、言い寄ってきた同性愛者の男性を森に誘い込み、刺殺するという事件を起こしていたのだ。この時点は事件は未解決であったのだが、インナーサークル内ではFaustによる犯行であることは周知の事実。
最早放火だけでは周囲の尊敬を集められないと感じたVargは、Euronymous殺害を決意したというのである。
真実は良くわからない。
いずれにせよEuronymousの死、Vargの逮捕により一気にリーダー格二人を失ったインナーサークルは、瞬く間に求心力を失う。
またこの事件をきっかけに、過去のインナーサークルによる犯罪の密告、自供が横行。複数の逮捕者を出した。
Kerrang!が、これらの事件の顛末も詳細に報じたことは言うまでもない。
いずれにせよEuronymousの死、Vargの逮捕、インナーサークルの崩壊を契機に、ブラックメタルは「本当に危険な音楽」ではなくなった。
ブラックメタルはあくまでその音楽性、そして邪悪な「イメージ」のみが受け継がれ、スラッシュメタル、デスメタルなどと同様、エクストリームメタルの中の一ジャンルとして定着、認知されるに至ったのである。
次回、本コラム最終回。
CREDIT: Sigh 川嶋